7月7日(金)夜、「政策立案のための問題発見トレーニング」を滋賀県庁で開催しました。滋賀県庁の若手職員有志による業務外の企画で、政策立案の新たなアプローチとして、デザイン思考をベースにした課題発見の手法を取り入れようと、その第一歩を学ぼうというものです。
そして我々に近い世代のゲストをコーチとして招くことで、できるだけフラットな関係で学ぶことを目指しています。第1回と第2回のコーチは、東京と長浜を拠点に活動している中山郁英さん。
今回行うトレーニングの基礎としているのは「人間中心思考」としてのデザイン思考です。なかなかこういうアプローチで政策立案を行うという事例を日本ではあまり聞いたことがないので、とてもチャレンジングではあるのですが。県民どうし「じぶんごと」として捉えられるそんな政策立案を目指し、試行錯誤しながら頑張ってみましょう。
デザイン思考とは
うごきのデザイン
デザイン思考といいますが、「デザイン」と聞くと、ポスターをつくったりイラストを描いたりというイメージで捉える人が多そうですが、、、ここで中山さんがNHK Eテレの「デザイン あ」という番組でやっていた「うごきのデザイン」という1分ぐらいのアニメーション動画を紹介しました。
泳ごうとする人がたくさんいるが、一人ひとり泳ぎ方やプールの使い方が違う。ボール遊びをしたい人もいれば浮き輪がないと泳げない人もいれば速く泳ぎたい人もいる。そんな状況のなかで、誰かが飛び込む始末。プールの中が滅茶苦茶になってしまいました。
そこでレーンをつくった。するといろんなニーズをもった人が同じ時間に同じ場所で泳げるようになった。動き方をデザインすることによって問題解決を図ったというアニメーションです。広義にデザインを捉え、様々な場面での問題解決でその思考法を活用する。
5つのステップ
ここでデザイン思考について、「d.school」というスタンフォード大学のある機関が掲げた5つのステップが紹介されました。
The Design Thinking Process | ReDesigning Theater
まず「Empathize」、共感するということ。ユーザーがどういう行動をしているのか観察したりインタビューしたりすることで、事実情報を集め、そこからユーザーの気持ちに共感していく。大人数に聞くというよりは、少人数に深く、何を考えているのか掘り下げることが大切なのだと。
二つ目が「Define」。共感した中で何が解決すべき問題なのかを定義する。
三つ目が「Ideate」。定義した問題をどうやって解くか。Defineを目的とするなら、Ideateは手段。こちらは色んな手立てが考えられます。
そして「Prototype」は、金銭的・時間的コストをかけず、何をやろうとしているのか共有しながら、何回もやり直してよいものにしていく。
そして「Test」、制度化・製品化する前に一回生身のユーザーに試してもらって、自分たちの仮説が効果があるのかを検証する。
このプロセスは普段デザイナーと言われる職種の人たちがこういう思考方法で作っているといわれるんですね。これをもっとデザイン以外にも使っていこうというものが「デザイン思考」です。
今回のワークショップでは、この最初のフェーズである「Empathize」の部分に特化しています。ただ技術(モノ)ありきでアプローチするのではなく、人のニーズを起点にして、客観的事実から洞察を見出し、潜在的な課題を見出していこうと。
言ってることはわかるんだけどイマイチ「じぶんごと」として共感しにくい、そんな政策のキャッチコピーって耳にしますよね。もっとユーザーのコトに迫ることによって、そういった失敗は防ぐことができるのではないでしょうか。
ユーザーのコトを知る
といってもただ話を聞いてるだけでは何のことかわかりません。一度からだを動かしてその感覚を掴んでいきましょう。
ペルソナは想像・思い込みでつくらない
この1ヶ月のワークショップでは、ユーザーのコトを知る第一歩である「ペルソナ開発」のコツを掴んでいきます。
ひとまずペルソナ開発とまではいきませんが、「首都圏における在滋賀企業による就職・転職説明会」をお題にして、そういう集まりに来そうな人たちってどんな人たちなのか?3人一組のグループで考えてみます。
「こういう人っているんじゃない?」「ああ、いそういそう」といった会話が飛び交います。
その会話をもとにしたイメージを紙に落とし込んでいます。
似顔絵を描いてイメージを具体化させるグループも。
でも本当にこんな人っているんですかねぇ?
ペルソナはただ想像・思い込みで描くものではなく、インタビューや行動観察などで得た事実情報や洞察などをもとにつくりあげていきます。一人で描いても詰まってしまうので、こういうのはチームでつくっていくのが重要なのでしょう。
行動観察の基礎を体験する
では今度はそのユーザー像を理解するための「行動観察」について体験してみましょう。今度は2人一組となって、コンビニで購入したヨーグルトを食べる様子を観察し、その人の行動を時系列に記録していきます。
しっかり相手の様子をみて、書き込んでいきます。
何を見るかで書く内容や数も変わってくるようです。
何個書きましたか?
5つ以上書いた人。
10こ以上書いた人。
15こ以上書いた人も。すごいですね、、、どんな記録をしたのでしょうか?
普通に書くと「スプーンをあける」「フタをあける」「食べる」「食べ終わる」「スプーンは入れたまま」といった内容も、どこまでその様子を具体的に書けるかで、そのユーザーのコンテクストを掴むための引っ掛かりを見つけることができそうです。
この人は14こ。「スプーンを開けた」「なかなか開けられずに苦戦していた」「フタを机に置いた」「混ぜた」「髪の毛を耳にかけた」「ペース早めに食べた」「もう一回髪を耳にかけた」「カシカシした」「箱を傾けてカシカシした」「さらに箱を傾けた」「食べ終わってゴミを中に入れた」「ごちそうさまと言った」「ゴミを横に置いた」「プリントを元に戻した」。
「フタをあける」などモノに捉われがちですが、その人の食べ方や途中の仕草などにも着目していくと、その人のコトについて色々と気づくことがあるのかもしれません。
一方で自分の価値観で勝手に書いた記録はないだろうか?「苦戦していた」と記録したけど、もしかすると相手はそう思っていなかったかもしれません。中山さんが行動観察体験のまとめとして、3点の留意ポイントを示しました。
「人は見たいものしか見ない」。自分がいま見えているものは、自分の価値観や経験に影響を受けている。今後行動観察していくときはその点に留意をする。
「事実と解釈は分けて考える」。実はこうなんじゃないかと思ったことについて、事実と解釈が混じってしまうと、洞察で行き詰まったとき、立ち戻る場所がなくなってしまう。何をやったのかという事実と、それを見て自分はどう思ったのかという解釈と。
「行動観察する場合はリアルな場所に行く」。今回の観察体験はすごく不自然な場だし、「いただきます」とか合掌とか多分みんなしないと思うんですよ。観察するときは普段それが行われている場所ですること。ヨーグルトというテーマであれば、その人が本当におやつで食べている場面をこっそり覗くとかしないと、本当の洞察は得られない。これはインタビューも同じこと。インタビューと意識された途端にいい感じの答えを返そうと思っちゃうのが人だと思うので、その点にも留意する。
ユーザーのコトを知るために
今回は会議室のなかで同じ県職員どうしで観察をしあいましたが、本来はサービスを提供するその現場で、サービスを提供するユーザーをみつけ、その人の行動を観察していく必要があります。よく公務員の間でも「地域に飛び出すことが重要」と言われてますが、重要なのはただ現場に出て人と会話するだけでなく、その現場でいかに行動を観察したりインタビューをし、客観的な事実をもって洞察に至ることができるかなのでしょう。このワークショップでは、1ヶ月かけてその取っ掛かりを掴んでいくことになります。
というわけで最後は会場を変えて反省会。こういうワークショップは時間が経つにつれて忘れていくものなので、早い目に学んだことを共有することで各々身につけていかないとですね。次回は「インタビュー」についてその手法を学んでいきます。