12月19日(水曜)夜、これまでの成果を県職員と共有する活動報告会を開催しました。

これまで Policy Lab. Shiga では「県民の本音」を起点にした共感に基づく政策形成のアプローチとして「デザイン思考」に着目し、約1年かけてデザイン思考を活用した実践的な政策研究を実施、2018年8月31日には成果に基づく「提言」を滋賀県知事あてに発表し、11月5日には知事との意見交換を実施しました。

しかしあくまでこれまでの Policy Lab. Shiga は、10名強の県職員有志による非公式・業務外の集まりに過ぎません。この活動をきちんと行政の政策形成プロセスにフィードバックさせるためにも、まずは県庁内で注目していただいていた方々に向けて報告する機会を設けよう、ということで、このような場をつくりました。

会場は、いつも定例会で集まっていた県庁の多目的室。提言メンバーや知事を含め、25名の方が参加しました。

冒頭、開催にあたって参加者に次の2点のお願い。一応時間外の活動ということもあり、この時間は役職や年齢などは一切忘れて話をしましょうと。でも、今回各々が得たことは明日以降、各々の業務に生かしていきましょうと。

参加者からの質問


「報告会」とは言いながらあまり一方通行の場にしたくなかったので、これまでの活動やデザイン思考の概要の報告は10分程度に留め、各テーブルにいる Policy Lab. Shiga 提言メンバーとの会話を通じて、気になったことを各々キーワード化して、付箋に書いていきました。


かといって25名もいると集約が大変なので、まずは3つのテーブルに分かれてキーワードを共有しあうことに。


各テーブルで気になったキーワードはホワイトボードで整理し、会場全体で確認しあいます。時間の都合上ぜんぶを拾い上げることは出来なかったのですが、面白そうな質問をピックアップして、会場の皆さんと意見交換を行いました。

ペルソナはどうやって作られたのか

質問
「行政の仕事はどうしても自分の事務分掌から出発し、仕事の関わりもそこばかりになってしまうと思うんですが、今回のロールプレイで作り上げた4つのペルソナは、どうやって作られたのか、知りたいです」

今回できた4つのペルソナ(架空の人物像)は、まずメンバーの関心ごとにそっていくつかのテーマを設定し、それぞれのテーマにまつわる「◯◯さん」にとっての2030年をデザインするというロールプレイを行う過程で作られました。


これらの人物像は架空ではありますが、空想によるものではなく、観察やインタビューといった定性調査に基づく記録をもとに分析して作られています。記録や分析の方法については、2017年7月に行ったトレーニングのレポートをご覧ください。この調査の過程こそ、デザイン思考(人間中心デザインプロセス)では重要なのです。

ロールプレイでは自分たちが気になる相手の輪郭を捉え、「県民」というぼやけた言葉ではない、より具体的な人物としての本音に迫ることを重視してきました。似顔絵や名前ができることで、たとえそれが架空であっても、空想ではなくリアルかつ客観的な調査に基づいていることから、メンバーの中でもペルソナに対して愛着がわいたり「幸せになってもらいたい」と感じるようになっていきました。そういった「共感」を持ちあうことで、事務分掌といった制約が外れていくのかもしれません。

あるチームでは「地域とうまく関わりを持てない同年代の人」に着目して、その人が悩んでいることは何か、人物像を定めながら探っていたところ、当初は自治会活動的なものに着地するのかなと思っていたら、人物像が定まっていくうちに、当初イメージしていたものとは全然違う「居場所」のあり方が見えてきたそうです。

一方「滋賀への移住」というテーマで調査を始めたチームのリーダーは、調査の過程で様々な人の「移住先の習慣」や「家族観」に直面していくなかで、単に「人口減少対策」「滋賀の魅力発信」などで片付けるのではなく、移住を考えている人が追求したいライフスタイルや人生で大事にしていることを重視するようになっていったそうです。

終了後に参加者の皆さんに書いていただいた感想から、このようなコメントがありました。

「事務分掌の壁」という話がありましたが、そもそもデザイン思考で作られる政策は、既存の事務分掌では拾いきれない潜在的行政ニーズなのかな、と感じましたし、そこにデザイン思考のメリットがあるのではないかと思います(顕在化しているニーズはどこかの事務分掌で一応拾っているのでは?)

意見交換のなかでは、究極的にはその人の思いや価値観を「県職員」として受け止め合えるような土壌があればいいのかな、という声もありました。そのうえで然るべき部局と繋げられたらよいのでしょうが、現状は「繋げる」というよりは「丸投げ」になってしまう風潮もあり、その辺から見直していく必要があるのかもしれません。

取り組んで自身が変わったこと

質問
「この活動を通じて、聞き取りやインタビューといったスキルみたいなものが仕事のなかで生かされた経験があれば、聞いてみたい」

提言メンバーの一人は担当柄、対面業務ではなく電話でのやり取りが多いなかで、「電話の相手がどういうことを課題に感じていて、どういうことに悩んでいるのか、その背景まで読み取りながら話を聞くようになった」そうです。

ただ、その課題が自分の役割を越えたところにあるとき、どう動けばよいのかで悩んでいるのだとか。

「一人では動けない」状態は、部局を繋ぐという課題だけでなく、そもそもデザイン思考の基礎的なこととして解決すべき課題です。一人が話の聞き取り方を意識するようになっても、たった一人では事実と解釈の整理なんてできないし、”抑圧されているがゆえに語りえない本音” を見つけることはできないからです。2017年7月に行ったトレーニングでも、コーチから「絶対一人だけで調査しないこと」という話がありました。

「インタビューが終わったらすぐにラップアップ、振り返りの時間を作らないと忘れちゃいます。その時の空気感は、仮に録音してたとしても、聞き手によって全然違う風に感じているものです。対象者が喋る言葉を複数の視点で聞いてメモして、それについて話し合うことで客観的な事実が見出されます。それがペルソナをつくるにはすごく重要なところになります


政策立案のための問題発見トレーニング #3「インタビュー(実践フィードバック)」

「本当のニーズ、必要としているコトを探る」ためのデザイン思考の文法のようなものを、一人だけでなく上司や同僚といったチームの中で共有することが、今度は重要になってきます。

ある提言メンバーは、自身の担当事業に関わる人がその事業にどういう気持ちで関わっているのかを整理し、上司に事業の見直しを提案したところ、受け入れてもらったそうです。来年度は少し違う形で事業の予算要求を行うことにしたんだとか。

最初は一人かもしれないけれども、こういった拡がりが組織への浸透では重要なことなのだろうと思います。

滋賀県庁で分野を越える仕事はできそう?

質問
「1年間の実践を通した肌感覚で、皆さんの本音として『滋賀県なら分野を越えてやっていけそうだな』という感覚になっているのかを知りたいです」

「今すぐには難しいかな…」という提言メンバーの声のほか、参加者からも「デザイン思考が必要というのはわかるけど、体に落ちないというイメージがある」という声が。

「デザイン思考はスキルセットよりマインドセットが大事」というのはこの1年強く感じたことですが、理屈で網羅しようとする前にまず実践によって態度を身につけていく機会が作られないと、浸透していかないのかもしれないですね。終了後にいただいた感想からもこのようなコメントがありました。

「デザイン思考についての県庁内の認識が進めば、次の展開にいける」というような話がありましたが、ニワトリが先かタマゴが先かの議論ではありませんが、浸透するのを待っていても永遠にそんな時は来ないと思うので、鉄はアツいうちに打つ必要があると思いました。

「部活」

ちなみに、10年ぐらい前に「協働部活プロジェクト」という県事業があったそうです。テーマ枠で「部活」の時間を設けて、部局関係なしに横断的な政策研究を、県職員とNPO関係者が協働して調査・分析・検討していたとのこと。

当時その「部活」に関わっていた方の話。

自分の本当の仕事は仕事でやるんだけど、「○○部に所属してます」と言えば一応県庁の看板は背負いつつ、自分が興味のあることを取り組んでいました

「部活」というのは面白い表現ですし、意識としてはこういう持ち方で臨めたら良いのかもしれないですね。

一方、これが公式ながら「業務時間外」というルールになると、どうしても活動としては定時(17:15)以降や休日でしか出来なくなりますし、例えば家族の看病をしないといけない職員はどうしてもそのような活動には参画できなくなります。「公務員にとって公務の境界線は本来あってないようなもの」と捉えるならば、業務時間内・外で分けるのではなく、どこか業務の中にその部活が入り込めるような可能性を模索したいのですよね。それが11月5日の知事との意見交換でも示したGoogle の「20%ルール」のようなものです。今回の活動報告会で使ったポスト・イット®ノートも、実は3M社の同じような企業文化「15%カルチャー」によって生まれたといわれています。

「これは創業者の考え方ですが、社内に『汝、アイデアを殺すことなかれ』という言葉があります。失敗を回避するよりアイデアを育てるほうが大事という考え方で、失敗には寛容に、それよりもチャレンジを支援しようという文化なのです。ですから、興味があれば自分の専門外のことでも積極的にトライし、社内の専門家(技術者)に質問や相談をしながら研究を進め、専門家も気軽に教えるといったことが、当り前のように行われています。これは、有効な人材育成であり、人材活用でもあると思っています」

(中略)「当社には、『15%カルチャー』を実践するひとつの形として、『ブートレッギング』という習慣があります。上司に認められていない案件であっても、担当者はひそかに開発や研究を続けることができ、上司もそれを黙認するという暗黙のルールです。ちなみに、『密造酒=ブートレッグ』から来た言葉だそうです」

住友スリーエム編 | モノ見聞録 | グッデイならできる♪「ホームセンターGooDay」

「県民の本音」を起点にしたこれからの政策形成に向けて、県庁でどういったことができれば良いか


Policy Lab. Shiga としての意志は知事に向けた提言として示し、また今後のアクションについては「Policy Lab. Shiga の今後について」のなかで示したとおりですが、このレポートでは、終了後にいただいた感想のなかから、参加者の声を一部ピックアップします。

インタビューのプロセス自体に県民にとっての救いはあると思います。行政を見る目も期待値も変わる。ただ各ペルソナの隣りにも県民はいるわけで個にフォーカスすると見えなくなるものがありそうですが、”いうまでもなかった本音=あきらめ”という部分では共通していて、どれも人間関係の希薄さから生じているものだと感じました。そこにアプローチできればいいなぁと。支援する側とされる側として県民と接すると一気に行政的になりますが、行政だからこそできるアプローチに挑戦したいです。

知事裁量の新規事業施策に、こんなのどうですか?と提案できる枠をもらう。所属にとらわれない提案を全庁から募ってコンペ。行政マンである前に私たち自身も県民なので。

外部の人も入れて、本音で語り合うことができる継続的な場作り。過去も場はありましたが、1~2年でなくなりました。
普段の業務の中で「県民の本音」に出会える機会が圧倒的に少ないと感じます。もちろんアンケートで分かるものではないし、普通にヒアリングしても聞けません。経験上、何度も足を運び、業務とは別の付き合いも含めてする中で、初めて出会える(気付ける)類のものだと思います。
タスクフォースを立ち上げて、具体的に政策立案してみたら良いと思います。「事務分掌の壁」を感じた仕事(課題)の抽出・解決策を検討したり、「トライ&エラーになじむ仕事(課題)」の抽出・検討をしてみたり。

タスクフォースの制度設計としては、
– 職務内での活動が出来るように
– 所属長などの理解を促進する必要
– テーマや運営は当事者で決める(ガチガチにしばらない)
– 外部の人も入れるように
といった思想が必要かなと思いました。

県政全体の役割を分担した滋賀県行政組織規則、同規則に基づく各課の事務分掌の規律は必要。

そうした規律の必要性を踏まえつつ、個人の自発的な取組、県政全体を俯瞰した取組、新たな創発のチャレンジを促すため、仕事の8割の時間は事務分掌、残り2割の時間は自発的な取組を認め、例えば、Policy Lab.Shiga のようなプロジェクトを、デザイン思考活用推進担当の係員として、兼務の併任発令を行い、政策形成に携われるようにする。また、兼務されたメンバーは、各課の依頼や自発的に新規政策の立案・検証等の仕事をサポートできるようにする。

Policy Lab. Shiga では今回の提言に関連する形で、職員施策提案制度を通じて正式に県行政経営企画室あて提出しており、そのなかで県庁内で検討をしていただいています。またその結果についてはこのウェブサイトでもお知らせできればと思います。

今日各々が得たことは、明日以降、各々の公務に生かしていきましょう


終了後も30分以上、会場では会話が続いていました。なんというか、色んな本音を参加者らと共有しあえた気がしています。それは別に手応えというものではないんですが、でもその感覚こそが、物事を一歩前に進める重要なプロセスなのでしょうね。

今日は「役職・年齢などは一切忘れて話をしましょう」というルールでワイワイ話をしましたが、今日各々が得たことは、明日以降、各々の公務に生かしていきましょうということも確認をしました。なんとか今日の話が、滋賀県の公務へとフィードバックしていき、「県民の本音を起点としたこれからの政策形成」に向けて一歩前進んでいけば、と思います。ご参加いただいた皆さん、有難うございました。

年明けの1月12日(土)には草津市との共催でデザイン思考のトレーニングを行います。こういった実践の共有によってデザイン思考を実践していく仲間が行政に増えていくといいなと思います。詳細は下記ページをご覧ください。

草津市との共催で「政策立案のための問題発見トレーニング2019」を開催します