7月14日土曜日。3回目となる未来アイデアソンは、近江八幡にあるコワーキングスペース「co-ba OMIHACHIMAN」で開催します。


今回ご一緒させていただくのは、滋賀県内に住む or 通う大学生・高校生を中心に構成される団体「kaname」。滋賀県は人口に対する学生の割合が全国的にも高いそうですが、大学の垣根を超えた学生どうしの活動・発信はあまり耳にしないのが現状です。「kaname」は、そういったことに問題意識を持った県内の学生らが集まり2017年にスタートしました。メンバーどうしの興味関心にあわせて県内で様々な発信イベントを展開しながら、県内に暮らす様々な人たちとのコミュニケーションを展開しています。


そんな kaname の皆さんと4人のペルソナの未来を考えます。ちなみに今回ファシリテーター(この記事の筆者)は自宅からリモートで参加することになりました。そのため途中の議論の様子は端折りながらのレポートになりますが、ご容赦ください。


これまで確認してきましたが、アイデアソンで出てきたアイデアは必ずしも正解ではありません。実際に顧客となりうる人たちを探し、検証することによって、より良いものにしていくというサイクルをつくる必要があると考えています。


前回アイデアソンの後も、各チーム様々なリサーチをしてきました。


送られてくる写真をみると、若干女子会感が強いイメージもあるのですが、できるだけ顧客の生活現場に近いところに出向くのがよいかもしれませんね。では各チームのここまでの進捗を聞いてみましょう。

ここまでの進捗

自分でない誰かになりたくて。(藤澤守、13歳 男性 中学生)

これまでに「学校の放課後に『第3の居場所』をつくれないか」というアイデアと、「滋賀県内のあらゆる世代の中学生時代のエピソードを体験談集としてまとめられないか」というアイデアが出ました。
ただ検証のなかで、居場所については「仮につくったとしてもそこに子どもは行くのか」という疑問が出ました。支援団体にやってくる子どもも親が連れてくることが多く、場所をつくるだけでは
解決にならないんじゃないかという話になりました。
また、体験談集については「漫画にまとめてみるといいんじゃないか」という意見をいただきました。子どもの頃にいじめられて相談相手もいなかったという方に話を聞いてみたのですが、彼は「当時は想像の世界に逃げることしかできなかった。でも体験談集を通じて同じ思いをしている人がいることを知れば、自分も当時救われたんじゃないか」という感想をいただきました。

やっと作り出せた友達との「居場所」が、就職や結婚を機に変わり…。(
宮川拓也、28歳 男性 会社員)

最初のアイデアソンでは「同窓会」というアイデアが出ました。知らないところに飛び出るのが苦手な拓也にとって、ちょっと知ってる人たちのなかでの新しい出会いとか再会という価値を提供できるかもと話してたんです。
でも検証をやってみると、同窓会に求めていることって結局懐かしさで、そういう新しい居場所にならないのかなということに気付いて。
ただ、検証の過程で今少しアイデアとして出てきているのは、「一人で行ける居酒屋」みたいな、行きつけのお店みたいなところを自分の居場所にできないかというものです。お店のなかでいろんな人と知り合うなかで自分の居場所みたいなものができないかなと。
もし実際にそういう店があれば、実際に行ってみるとわかることもあると思うので、その辺りはもう少し検証してみる必要があるなと考えています。

私、滋賀に「移住」しました。
(加藤美花、35歳 女性 主婦)

最初のアイデアソンでは「がっつり相談できる人が欲しいんじゃないか」という話をしていたんですが、そもそも加藤さんは「程よい人間の距離感」を好むので、そういう関係性はまだいい。それよりも、ぼんやりとした不安をまず相談できる人が欲しいんじゃないかと、検証を通じて考えました。
そこで2回目のアイデアソンでは、多様な世代の人たちと出会えるように、公園を遊具とかじゃなくて緑地にするとか、ベンチを置いて人がとりあえず溜まれる、そこでなんとなく面識を持って会話できる人を作れるようにしたらいいんじゃないかという話になりました。
すると前回参加してくださった方が「この美花さんはすごく自分の奥さんに似ている」という話になり、実際にその方に会ってみたら、「私公園デビューしてません」と言われまして。芝生にするとかベンチをつくるという案自体については、あまり賛同はいただけなかったんです。公園デビューしなかったのは「怖かった。この後どうしたらいいのかとか、そういうのが嫌だった」からだったそうです。
でも、その奥さん自身も「子育てをしていくなかで色々な情報が欲しいし地域のことも色々知りたいので、多様な世代との交流は持ちたいし、程よい距離感が保てれば、交流の機会づくりは必要だと感じている」そうでして。これまで美花さんは「程よい距離感」に満足していると思っていたんですが、美花さんも何らかの不安を感じているから、今の「程よい距離感」を望んでいるだけなのかもしれないなと考えました。

同じ言葉、同じ思い出、同じ感覚。持ってない私は置いてけぼり。
(高橋侑季、25歳 女性 会社員)

同じ感覚・同じ思い出を持っていないのであれば、これから皆と共有できる感覚・思い出を体験できたらいいんじゃないか。
そこでまず考えたのが「会社での研修」というものでした。例えば大人になってから「うみのこ」に乗るとか、そういう機会を研修の形でつくることで同じ感覚を共有できたらと。
もう一つ考えたのは「滋賀県あるある」みたいなもの。地元生まれ・地元育ちの人に尋ねて集めたものや、県外から来た人から見た「滋賀あるある」みたいなものを集めて、パンフレットとかにしたら面白いんじゃないかなと。それによって、高橋侑季さんも同じ感覚・同じ思い出というのを共有できるんじゃないかと考えました。
ただ、検証を通じて、面白いとは思うけど、この子に特化したことではないのではないか、彼女の問題を解決するアイデアとしてはまだ甘いんじゃないかという気がしています。

検証はユーザーに感想を尋ねるために行うのではなく、ユーザーの気持ちを知るために行います。その意味では、加藤美花さんのチームは結構よい気付きが得られているような気がします。

9コマシナリオづくり


さて、今回はこれまでのアイデアソンとは異なり、「9コマシナリオ」という手法でストーリーをまとめる作業を行います。何のためのアイデア(アウトプット)なのか、そのインサイトとアウトカムとが繋がるように、ストーリーを整理していきましょう。


各テーブル、まずはきちんと問題点を確認しあいます。入り口の問題点が共有されていないとゴールもアイデアもバラバラになってしまうからです。


これまで出てきたアイデアを整理しながら、


ストーリーをポストイットなどで整理し、シナリオをつくっていきます。


今回は東京からの参加者もいらっしゃいました。Policy Lab. Shiga は終盤ながらも県庁内の認知度はまだ全然低いのですが、県外では徐々に話題になっているようで、それがまた不思議だなと感じさせられます。


「kaname」のメンバーのうち数名は、実は前回のアイデアソンにも参加していただきました。今回また違う場所・違うメンバーで取り組んでいますが、どういった話ができたのでしょうか。


今回は1年前のトレーニングに参加していた方も来られました。こういうの嬉しいですね。






そういうしているうちに、気がつけば16:30です。ここまでの各チームの成果を発表しあいましょう。

成果報告

同じ言葉、同じ思い出、同じ感覚。持ってない私は置いてけぼり。
(高橋侑季、25歳 女性 会社員)

前回は、「新地元あるある」を高橋さんと周りの人たちとをつなぐものとするということまで整理しました。
今回は、前回からの「新地元あるある」の企画をさらに詰めていきました。自分から何かをするというタイプではない高橋さんが普通に生活していて、受け取るもの、目につくものは何か。電車の中吊り広告や駅のポスター等いろいろな意見が出ましたが、レシートに「あるある」を印刷するという意見がもっとも低コストで効果的なのではないかということになりました。
レシートには複数種の「あるある」を印刷するのですが、その「あるある」を通して会社の飲み会であったりいろんな場面で高橋さんが周りのみんなと滋賀の話題を共有できるのではないかと考えました。
みんなと一緒に滋賀を楽しむことができたなら高橋さんはもう疎外感を感じることもなくなるのではないか。そのきっかけの一つとしての企画です。

私、滋賀に「移住」しました。
(加藤美花、35歳 女性 主婦)

前回のアイデアソンで出てきた「芝生&ベンチ」のサービスは美花さんと似た発想のインタビュー対象者には響かなかったので、インタビューを基にして新たなサービスを考えることにしました。
これまで、美花さんは外に出ないでも十分に幸せなので外の世界には出ていかないだろうと思っていたのですが、今日のアイデアソンを通じて、美花さんが外に出ないのは外の世界に出ることに対する煩わしさや不安を感じているからでないかという話になりました。もっとも、美花さんは煩わしさや不安から外の世界との接触を遮断しているのではなく、子供にプラスの環境を与えることができるのであれば、外の世界とも覚悟を決めてある程度接触するようになるのでしょう。そこで、美花さんが覚悟を決めたときに安心・安全にコミュニケーションをとれる相手を増やすサービスを考えることにしました。
子育て真っ盛りの親は自分の楽しみよりも子供が楽しむことを優先させますから、子供を中心にして他の親や世代と関われるものがよい。そこで、子供に良い効果があるもの(知り合いが増える、学習効果がある、何らかの経験が得られる等)、様々な世代と交流ができるもの、かつみんなが参加し自分も参加することに違和感がないイベント(例えば「うみのこ」やバードウォッチング、ベンチのペイントを親子でしあうような機会)のアイデアが出ました。

自分でない誰かになりたくて。(藤澤守、13歳 男性 中学生)

自分を認めることができない、誰かに承認されたい!という思いからしんどさが生じている。承認されるにはあんな風にならないと!という理想像が、学校や家庭だけの狭い価値観に基づいているのが守の抱える問題です。
そこで今回出た解決策では、「色々な人に出会ったり、色々な経験をすることで人から肯定されたり、または自分で自分を肯定できるようになれれば良いのでは」という話から、どうやって守に情報を届け、「色々な場所に行ってみよう」と思わせるか、という話になりました。
人は自分と共通していたり知っている情報が目につきやすい、また友達に誘われたら行きやすいという発想から、あらゆる世代の中学時代の体験談をまとめた冊子の話になりました。「中学生」や「悩み」といったワードはきっと目にとまるし、冊子に県内の場所が載っていたら、実際に行くこともできるし、そこで色々な経験をして自己否定の気持ちが薄れて自信がつき、自分にあった目標が見つけられるかも、という整理をしました。
今回のグループメンバーでは、不登校や自分に自信のない学生のサポート等をされている方がおられ、現場で接してきた子どもたちの話や、自己肯定感をあげるためのアプローチの仕方等も意見をいただき、とても勉強になりました。

やっと作り出せた友達との「居場所」が、就職や結婚を機に変わり…。(
宮川拓也、28歳 男性 会社員)

まず拓也の理想の状態として、自分の”居場所”を見つけることと定めました。そのために提供する価値として、一人でも晩ごはんを食べられるお店をリストアップしたリーフレットのようなもの、というアイデアに絞りました。これは、よくあるランチパスポートを晩ごはんに応用したものです。
拓也には、このリーフレットを手にとってもらい、ふらっと、一人で晩ごはんを食べるなかで、いつしか常連客となり、他の客や店長と居心地のよい繋がりを作っていくというストーリーを考えています。
今後は、このストーリーを9コマシナリオとして仕上げると同時に、晩ごはんパスポートのプロトタイプを作り、検証する作業に挑戦しようと思っています。

9コマシナリオはどのチームもまだ完成しておらず、今日の話を踏まえて7月末までに完成させることになりました。

今後のこと

さて、これまで3回のアイデアソンを行ってきましたが、ではこのアイデアソンで出たアイデアに1億の税金を投じるべきか?というと、それはきっとNOですよね。

一方で(できる範囲で)検証を重ねることで少しずつアイデアが良くなっているのも事実です。目の前にある見えない問題を解決していく上で大切なのは、とにかく1億円の税金を投じるためのアイデアを探すことではなく、より良いものにするために必要最小限のトライ(投資)を繰り返して逐次ブラッシュアップしていけるプロセスなのではないかと思います。

今回の「アイデア&プロトタイピング」ではあいにくアイデアをサービスにまで固めることはできませんでしたが、「必要と思ったことをまずやってみる」という姿勢を持ち合うことはできたのではないかなと思います。この辺りの振り返りは来月の提言に生かしていく予定です。

アイデアソン&検証を通じたペルソナのストーリーづくりはこの7月で終了します。そして8月からは、Policy Lab. Shiga がロールプレイング的に歩んできたこの1年間のプロセスと、既存の県行政のプロセスとを比較しながら、「県民の本音を起点にする」うえで現在の滋賀県の政策形成プロセスに欠けているものとは何か、その見直しに必要なこととは何かを、明らかにし、滋賀県知事に向けた「提言」を取りまとめる予定です。

何はともあれ1日おつかれさまでした。ひとまず9コマシナリオは7月末に完成させる予定ですので、4チームの活動はあと半月続くことになります。